2010年2月23日火曜日

左文字のすすめ⑤

レオナルド・ダ・ヴィンチの左文字①〉 


 歴史上、左文字を書いて素晴らしい業績を上げた例として、レオナルド・ダ・ヴィンチが挙げられる。

 彼は生涯に、現存するだけでも四千枚に及ぶ克明な手稿(ノート)を残していて、周知のように、絵画や彫刻だけでなく、解剖学、工学、天文学、数学、地理学、音楽など実に多方面にわたる研究を行い、そのほとんどを左手を使い左文字(鏡文字)で記している。

 

レオナルドはみずからを「文字を持たない人間」と称していた。ふつうは「文字」とは学問を指すようだが、レオナルドの場合示唆的で、文字そのものとも考えられる。理由のひとつは、彼は言葉よりも図やデッサンのほうがはるかに真実を表現できると考えていたし、もうひとつは、彼は左利きなので、そのままでは文字を書けなかったからではないだろうか。イタリア語もラテン語も、地上のどの言語も左手で書くようにできていない。

レオナルドが文字を持つというのは、文字の代替品を書けるということではなく、全身全霊をこめて、世界に光を充て、切り裂き、探求する文字のことだ。全能を使い、真実と価値を明らかにする文字だ。彼はもちろん左文字を使ってそれをやり遂げたが、それにもかかわらず、自分は文字を持ってないと言わざるを得なかった。